■今回のテーマは抗がん剤治療
今回ご紹介させていただく動画は、帝京大学医学部附属病院腫瘍科の関順彦医師による最新の「抗がん剤治療」について大変分かりやすく解説しています。
がん治療といえば、がんを切除する外科手術、がんに直接働きかける放射線治療、そして、抗がん剤による抗癌剤治療の三つがあり、それぞれにメリット・デメリットがあります。
中でも抗がん剤は辛い副作用に長期間にわたって苦しめられるため、抵抗する患者さんも少なくありません、そうした中、分子標的薬による治療が注目を集めています。
分子標的薬により、抗癌剤治療の副作用を大幅に抑えてくれますので、自宅から通院することも出来るようになり、しかも普通に会社で働くこともできます。
今回は、抗がん剤治療の現状について非常に分かりやすく解説しています。
出典:帝京大学医学部附属病院
■進化した抗がん剤治療
「佐々木梓さん」
がん治療の中でも特に抗がん剤を使った
治療はさまざまな副作用があるために
一般的にはつらい治療法だという
イメージがありますね。
ところが最近の抗がん剤治療は副作用を
大幅に抑えられるようになり
しかも大きな治療効果を期待できるよう
に変わってきているといいます。
「ナレーション」
がんの三大療法として知られているのは
がんを切り取ってしまう手術治療
放射線でがん細胞を攻撃する放射線治療
そして薬でがん細胞を攻撃する
抗がん剤治療です。
この中の手術治療と放射線治療はがんに
直接作用するため、局所療法といわれ、
薬を使う抗がん剤治療は全身療法
といわれています。
「関順彦医師」
これまで抗がん剤は、
がんの治療において放射線療法や
「外科療法」といったものの
三大柱の一つとして
一応位置づけは
されてきたんですけども
やはりその効果の面
あるいは副作用の面、
そしてその副作用を克服する対応策
といったものが十分でなかったので
どちらかと言いますと
放射線療法や手術療法に対しては、
補助的なは使われ方をしてきたという
そういう背景があります。
しかしながら、近年になって、
新薬が出たり、あるいはその対応策が
十分に発展してきたという経緯から
がんの治療において、
まさに三本柱の一角を担うという
ところまで発展してきました。
「佐々木梓さん」
新しい発想から生まれた
抗がん剤が登場したり、
化学療法自体が大いに進んで、
以前とは全く違うものになったという
抗がん剤によるがん治療。
そこで今回は患者さんの生活を
一変させた最新のがんの化学療法
について見ていきます。
■抗がん剤治療の副作用の問題
「ナレーション」
帝京大学医学部内科学講座
腫瘍内科 関順彦医師
現在進みつつある抗がん剤の目覚ましい
発展と患者へのサポート体制を含めた
医療体制の充実の先には通院だけで
がんを治療することができる患者に
やさしいがん治療の理想の
未来があるといいます。
「佐々木梓さん」
抗がん剤治療では激しい副作用との
戦いがあるとよく言われてますよね。
「関順彦医師」
そのとおりです、確かに今までは
そのようにいわれてきました。
それは抗がん剤ががん細胞のDNAを
ターゲットとしてるという
ことに起因します。
つまりDNAを阻害することによって、
その細胞が分裂するのを防ぐ
ということなんですね。
ところが問題点として、
そのDNAっていうのは正常細胞にも
存在しますので
従って、抗がん剤はがん細胞だけでなく
正常な細胞にも作用してしまうってこと
から、副作用が強いっていうふうに
言われてきたんですね。
■進化した抗がん剤について
「関順彦医師」
最近になってですね、
抗がん剤の副作用はかなりなところまで
防ぐことができるようになってきました。
その最大の要素はですね、
抗がん剤の副作用を抑える
お薬の開発が進歩したという
ことになります。
これによってですね。
吐き気とかあるいは
下痢などの副作用を十分に
抑えるようになることができました。
従来であれば、入院治療を擁していた
ような患者さんでもですね
通院して抗がん剤の治療を受けるよう
になることができました。
もう一つはですねえ、骨髄抑制が可能
になったことが挙げられます。
骨髄抑制っていうのは白血球、赤血球、
血小板といったものが減少して
しまうことを意味します。
白血球が減ると「感染」が起きて
熱が出たり肺炎が起きます。
赤血球が減ると、貧血が起きます。
血小板が減ると「出血」を
起こしやすくなります。
最近では、これらのコントロールが
可能になった白血球が減ったときには、
それを増やすお薬を注射することに
よって、白血球が早くて立ち上がる
というふうなことが期待できます。
赤血球と血小板に対しては、
速やかに当日中に輸血をするという
ことが出来るようになったわけです。
「佐々木梓さん」
副作用を抑える医薬品や骨髄抑制が
できるようになって、患者さんの苦しみ
を格段に抑えることができるように
なったということでした。
ここでこのコーナーです。
■抗がん剤が効くメカニズム
「ナース」
ドクター今回は抗がん剤が
効くメカニズムについてですね。
「ドクター」
そう抗がん剤はがん細胞にも
正常細胞にも同じようにDNAに
作用して殺してしまう、
ということはわかったね。
「ナース」
はい、でもどうしてそれで
がんを退治できるんですか?。
「ドクター」
問題は抗がん剤は細胞の生まれ変わる
速さを標的にしていることなんだ。
「ナース」
生まれ変わる早さ?。
「ドクター」
問題は抗がん剤は細胞の生まれ変わる
速さを標的にしていることなんだ。
「ナース」
でもそれは正常細胞でも
同じじゃないですか。
「ドクター」
正常細胞は一つの細胞が新しく
生まれ変わるのに三週間から
四週間の長い時間が必要なんだ
それに対してがん細胞は猛烈な速さで
分裂して増殖するんだ。
抗がん剤はその細胞の増殖の
スピードの差、つまりタイムラグを
利用しているんだ。
抗がん剤の投与で正常細胞もがん細胞も
両方死ぬけれどもがん細胞は再生の
サイクルが早いからどんどん死ぬし
正常細胞はゆっくり生まれ変わるから
あまり死なないというわけさ。
「ナース」
なるほど
「ドクター」
だからがん細胞と同じように
早いサイクルで再生する粘膜細胞や
毛根細胞も一時的に死んでしまうために
下痢や嘔吐や抜け毛などの
副作用が起こる。
「ナース」
うんうん。
「ドクター」
だから、副作用が起こっても感じない
ようにしたり、または副作用自体を
起こさないような抗がん剤の開発が
治療効果を格段に上げているという
のが今回のテーマなんだよ。
■分子標的薬のメリット
「関順彦医師」
最近はですね、分子標的薬といった
ものが出現してきました。
これはですね、がん細胞が出している
増殖因子というものや血管新生を
促すような増殖因子
そういったものをピンポイントで
攻撃するというふうなお薬なんですね。
つまりですね、がんの悪性化にかかわる
増殖因子や転移に関わる因子だけを
選んで攻撃することができるので、
正常な細胞にはほとんどダメージを
与えないで済むわけです。
したがって、従来の抗がん剤に比べて、
ほとんど副作用はないというふうな
治療が実現できるわけです。
「ナレーション」
がん細胞は猛烈なスピードで
増殖するため、大きなエネルギー
を必要とします。
そのエネルギーを得るために
自分の周囲に沢山の血液を呼び寄せよう
と新しい血管をどんどん作るという
指令を発する分子を出しています。
それが特異分子の一つ新生血管に
関する分子です。
分子標的薬はそのようながん細胞が
出している特異的分子に狙いをつけて、
その働きを阻害するという
攻撃をするのです。
「関順彦医師」
血管を作れとがん細胞が指令を
出すんですけども、その特異的分子を
見つけ出して、がん細胞が増殖できない
ようにしてしまうんです。
あるいはですね、がん細胞の増殖自体に
かかわるタンパク質を見つけ出すんです。
そして、そこに作用することによって、
がん細胞が増殖するのを防ぐんです。
「ナレーション」
現在日本で承認されている
分子標的薬は15種類。
日本で未承認のものも含めると、
アメリカでは21種類の分子標的薬
が使われています。
「関順彦医師」
分子標的薬はですね、
あらかじめ薬の効果が予測できる
というのが大きな特徴の一つなんです。
がん細胞にもいろいろな性質がですね、
同じ臓器のがんに対しても分子標的薬
が効くそういう因子を持っている物と
持ってないがんがあるんです。
したがって、治療前にその因子の有無が
わかりますと、まさに的確な治療を
提供することができるわけです。
このように見ますと、分子標的薬は、
副作用も少なくて、大変素晴らしい
お薬のように聞こえるかもしれません。
しかしながら、このお薬とて、
副作用が特異なものがありますので、
そこだけは注意をして使用するという
ことが必要になってきます。
■外来化学療法
「ナレーション」
そしてもう一つがんの化学療法に
大きな変化をもたらしたのは
外来化学療法が全国的な取り組み
として始まったことだといいます。
外来化学療法室には担当の医師、
看護師や薬剤師が専属で
常駐しています。
入院せずに外来で患者のサポートを
専門に行うスタッフが常に
揃っているのです。
抗がん剤にはどんな副作用が出るから
薬が効いているか、副作用への不安の
解消などに応え、個別のケアを行います。
具体的な治療法のサポートだけでなく、
患者の心の問題も応えることで患者の
がん治療をサポートしているのです。
「佐々木梓さん」
患者さんにとって、外来化学療法室の
一番利点はどんなのところにありますか。
「関順彦医師」
はい、最大の利点はスタッフが全員野球
をしてるということなんです。
したがって、副作用のコントロールが
十分にできるということなんです。
その結果、例えば仕事をしている
人であれば、仕事を続けながら
通院治療が出来ると...
あるいはですね。育児や介護も両立して
治療を続けることができるんです。
このようにですね、患者さんのQOLを
維持しながら治療を継続できますので、
入院しているよりも早く良好な回復が
期待できるわけなんです。
「ナレーション」
病院のスタッフは
24時間対応しています。
「太田修二医師」
この化学療法室ではですね、
患者さんの困った時いつでも
お電話でも対応でもできるような
形のシステムを整えておりますので
そういった意味でこの抗がん剤を
受けているて方は安心して抗がん剤を
うけて頂けるシステムを作られて
いると思います。はい。
「ナレーション」
看護師は5人体制、日本にまだ100人
余りしかいない看護協会が定めている
乳がんの特定認定看護師もいます。
「小野智恵美看護師」
誰にでも気軽に声をかけていただく、
患者さんが思ったことをすぐに表現
できるっていうような空間を作りたいと
みんなで話し合ってますので
誰でもいいので声をかけていただけたら
なと思って、業務してます。
「ナレーション」
薬剤師も日本に160人余りしか
まだいないがん専門薬剤師が
選任しています。
「杉本雅和薬剤師」
やはり看護師さんや医師とか、
近くに薬剤師がいますので
何か質問だとか、
看護師さんの質問だとか、
もちろん患者さんから
質問があったときに、
すぐに対応できるというのが
一番のメリットだと思いますね。
「ナレーション」
外来化学療法室を利用して、
海外旅行してきた患者さんもいます。
「治療中の患者さん」
こういう形で専門の
化学療法室がありますと、
こちらの看護師さんとか
薬剤師さんとや先生方に、
お伺いして不安を1つでも2つでも
解決して、旅行なんてってのも
諦めてたんですけども
看護師さんたちと色々ご相談して、
先生も「体調のいい時を見て行くのは
全然構わないよ」ってことで本当に
まさか化学療法の治療をしながら
海外旅行に行けるなんてホントに
考えてなかったので
もう私にとっては忘れられない、
いい思い出の旅行になりました。
「関順彦医師」
外来化学療法室ては、
患者さんの抗がん剤投与に際して、
外来の主治医あるいはその日の担当医師
看護師、薬剤師といった4人がですね、
独立して安全性をチェックしています。
したがって、そういう安全性がチェック
ができるという観点からも
まさに安心して、信頼をおいて治療を
受けていただけるという事は
期待できるかと思います。
「佐々木梓さん」
がん治療の化学療法は
今どんどん進んでいます。
がんといえばすぐ入院して治療する
という常識はどうやら過去のものに
なりつつあるようです。
まさに外来だけでがんを治療するという
夢のような治療選択が近い将来できる
かもしれませんね。